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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)6722号 判決 1997年8月28日

大阪府泉佐野市長滝三九六三番地

平成六年(ワ)第六七二二号事件・

平成八年(ワ)第五七八四号事件原告

株式会社晋和

右代表者代表取締役

原野和一郎

右訴訟代理人弁護士

川村俊明

右訴訟復代理人弁護士

折田啓

広島市中区河原町五番四-七〇七号

平成六年(ワ)第六七二二号事件被告

岡本邦芳こと

盧在明

広島市中区吉島町二-二三-三〇一

平成六年(ワ)第六七二二号事件被告

アモコーポレーションこと

渡辺好房

広島市中区河原町五番一号

平成八年(ワ)第五七八四号事件被告

株式会社アモコーポレーション

右代表者代表取締役

岡本邦芳

右三名訴訟代理人弁護士

坂本宏一

主文

一  原告の平成六年(ワ)第六七二二号事件被告岡本邦芳こと盧在明及び同アモコーポレーションこと渡辺好房に対する請求並びに平成八年(ワ)第五七八四号事件被告株式会社アモコーポレーションに対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨(第四項を除き、平成六年(ワ)第六七二二号事件、平成八年(ワ)第五七八四号事件共通)

一  被告らは、別紙営業秘密目録(一)ないし(三)記載の文書(以下順に、「本件得意先管理台帳」、「本件取引開始申請書」、「本件包装別支店ネット表」といい、これらの文書を総称して「本件各文書」という)の全部又は一部を第三者に開示してはならない。

二  被告らは、別紙顧客目録記載の顧客に対し、訪問、電話勧誘、郵便物の送付をし、又は別紙物件目録(一)記載の物件(以下「原告商品」という)を販売してはならない。

三  被告らは、原告に対し、連帯して金四〇七万七二七八円及びこれに対する被告岡本邦芳こと盧在明(以下「被告岡本」という)及び被告アモコーポレーションこと渡辺好房(以下「被告渡辺」という)については平成六年七月一六日から、被告株式会社アモコーポレーション(以下「被告会社」という)については平成八年六月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告岡本及び被告渡辺は、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の物件(以下「本件備品」という)を引き渡せ(平成六年(ワ)第六七二二号事件)。

五  仮執行の宣言

第二  事案の概要

本件は、原告が、原告の広島支店長であった被告岡本において、同支店閉鎖に伴って原告を退職した際、被告渡辺の幇助・加担のもとに、同支店に保管してあった原告の営業秘密である原告の顧客の住所・名称、商品毎の掛け率等が記載された本件各文書を窃取ないし詐取して右営業秘密を不正に取得した上、被告会社設立前は自らこれを使用して「アモコーポレーション」の名称で営業し、被告岡本及び被告渡辺(以下「被告岡本ら」という)が設立した被告会社にこれを開示し(不正競争防止法二条一項四号)、また、被告会社において、右営業秘密について右不正取得行為が介在したことを知って被告岡本らからこれを取得し、使用する(同項五号)という不正競争を行ったものであり、仮に被告岡本らが右営業秘密を不正の手段により取得したとはいえないとしても、被告岡本らにおいて、原告から示された右営業秘密を不正の競業その他の不正の利益を得る目的で自ら使用し、これを被告会社に開示し(同項七号)、また、被告会社において、右営業秘密について不正開示行為であることを知って被告岡本らからこれを取得し、使用する(同項八号)という不正競争を行ったものであると主張して、

被告らに対し、同法三条一項に基づき、右営業秘密の第三者に対する開示の差止め(請求の趣旨第一項)、本件各文書に記載された顧客に対する訪問・電話勧誘・郵便物の送付及び原告商品の販売の差止め(同第二項)、並びに同法四条に基づき損害賠償を求め(同第三項)、

併せて、被告岡本らに対し、原告が所有し、広島支店で保管していた本件備品を被告岡本らが窃取ないし詐取してこれを占有していると主張して、所有権に基づき、その返還を求める(同第四項)事案である。

一  基礎となる事実(争いがない)

1  当事者

原告は、住宅設備機器等の製造、卸売を主な業とする会社である。

被告岡本は、昭和五四年五月二一日に原告に入社し、平成三年本社の営業部長に就任し、同時に、広島支店(広島市中区舟入中町二-三七)、九州支店及び四国支店の業務を統括する職務をも担当していたが、平成六年四月三〇日の広島支店閉鎖後に「アモコーポレーション」の名称で自ら営業を行ったことが原告に発覚し、同年六月頃原告を解雇されたものである。

被告渡辺は、被告岡本の友人であり、同年一一月一〇日の被告会社の設立前において、「アモコーポレーション」の代表者と称していた。

2  本件各文書の内容

本件各文書は、原告広島支店において作成されたものであり、そこに記載されている情報(以下「本件情報」という)は、次のとおりである。

(一) 本件得意先管理台帳

別紙顧客目録記載の顧客の住所、名称、代表者の氏名等、電話番号、与信限度、締切日、請求期日、回収日、決済方法、商品毎の掛け率等が記載されている。

なお、掛け率とは、原告商品の各商品毎に定められた上代価格(小売価格)に対する当該顧客に対する卸販売価格の比率を意味する。

(二) 本件取引開始申請書

別紙顧客目録記載の顧客について、本件得意先管理台帳に記載された項目の外、顧客の営業内容や代表者の資産・家族構成・略歴、商品毎の掛け率等が記載されている。

(三) 本件包装別支店ネット表

別紙顧客目録記載の顧客について、原告商品の各商品毎の上代価格、支店ネット価格(本社から各支店へ計算上卸す渡し値)、販売単価(支店から顧客に卸販売する際の単価)、差益額(販売単価から支店ネット価格を差し引いた額〔支店レベルでの粗利益〕)、差益率(差益額が販売単価に占める割合)等が記載されている。

3  被告岡本の行為

被告岡本は、平成三年から原告広島支店の支店長として同支店を統括する地位にあったものであり、本件各文書及び原告所有の本件備品を保管していたところ、広島支店が平成六年四月三〇日に閉鎖されるに際して、それまで原告が同支店により直接顧客に販売していた原告商品について訴外株式会社セカイフジ(本社・愛媛県今治市東村一丁目二番五三号。以下「セカイフジ」という)の広島営業所(広島市安佐南区八木二丁目三番五八号)を原告の一括販売代理店とし、更にセカイフジから自己がその実質的経営者である「アモコーポレーション」の名称で原告商品を一括して買い受け、これを広島支店の従前からの顧客に販売することとした。

そして、被告岡本は、広島支店閉鎖に伴い本件備品を処分するについて、原告担当者に対し「これらは中古業者に無料で引き取らせる以外、処分方法がない」と言って、原告の了承を得た上、同年五月二日、広島支店から本件各文書とともに本件備品を搬出し、これを「アモコーポレーション」の事務所(広島市中区河原町五番一号)に搬入し、原告が広島支店閉鎖まで雇用していた従業員三名を雇用して、営業活動を行い、同年一一月一〇日、被告会社を設立してその代表取締役となり、被告岡本の個人営業を引き継いだ。

なお、本件得意先管理台帳及び本件包装別支店ネット表は、本件訴訟係属中の平成七年六月下旬、原告訴訟代理人を通じて原告に返還された。

二  争点

1  本件情報は、不正競争防止法二条四項所定の「営業秘密」に当たるか。

2(一)  被告岡本らは、本件情報を窃取ないし詐取という不正の手段により取得し、これを使用し、被告会社に開示したものであるか。また、被告会社は、本件情報について右不正取得行為が介在したことを知って被告岡本らからこれを取得し、使用したものであるか。

(二)  仮に窃取ないし詐取という不正の手段により取得したものでないとすれば、被告岡本らは、原告から示された本件情報を不正の競業その他の不正の利益を得る目的で自ら使用し、これを被告会社に開示したものであるか。また、被告会社は、本件情報について不正開示行為であることを知って被告岡本らからこれを取得し、使用したものであるか。

3  被告らが損害賠償義務を負う場合に、原告に対し賠償すべき損害の額。

4  被告岡本らは、本件備品を窃取ないし詐取したものであるか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(本件情報は、不正競争防止法二条四項所定の「営業秘密」に当たるか)について

【原告の主張】

本件各文書に記載されている本件情報は、秘密として管理されている事業活動に有用な営業上の情報であって、公然と知られていないものであるから、不正競争防止法二条四項所定の営業秘密に該当する。

1 本件情報は、各顧客のきわめて高度な私的情報や顧客と原告との間の与信度を計る枠、各顧客毎の利益率等を含むものであり、外部に漏洩したときは原告に重大な損失が生じることから、原告は、本件情報が記載された本件各文書又はこれと同種の文書につき、広島支店、大阪支店、名古屋支店、四国支店、九州支店の各エリア内における顧客の管理のため、絶対に外部に漏洩しないよう、各支店の長に厳重保管を命じ、その社外持出しや複写を厳禁し、末端社員に至るまで指導を徹底していた。

したがって、本件情報は、全体が秘密として管理されていた。

被告は、外部漏洩が禁じられていたのは本件情報のうちの一部にすぎない旨主張するが、すべてについて外部への漏洩を禁止していた(本件取引開始申請書について、被告主張のクレジット会社に対する関係も支払方法に関する事項として重要な営業上の情報であり、本件包装別支店ネット表は、すべて価格表に当たるというべきものであって、被告主張のように分解することはできない)。

2 本件情報は、原告が広島支店を開設した昭和五八年七月頃以降原告の多大な営業努力・販売実績等によって集積してきたものであって、現に取引が継続している顧客だけでも二〇〇軒以上存在するのであり、原告にとってきわめて有用な営業上の情報である。

すなわち、前記のとおり、本件得意先管理台帳には、顧客毎の掛け率や与信限度が記載され、本件取引開始申請書にも、顧客毎の掛け率が記載され、本件包装別支店ネット表は、売上伝票を発行する際に使用する表であり、顧客毎に適用されるべき差益率、差益額等が記載されているのであって、いずれもその全部が顧客と営業活動を結びつけるのに必要不可欠の情報である。

3 本件情報は、前記のとおり原告の長きにわたる営業努力・販売実績等をもとに原告において独自の掛け率・利益率・与信枠等を設定、集積してきたものであり、これに基づき原告商品を販売するなどその結果を活用すべき、競業他社はもちろん、その他の第三者にも絶対知られてはならない情報であり、当然、公然と知られていない情報である。

もっとも、広島に存在する中小の工務店の存在、所在及び連絡先等は、誰もが知りうるものであるが、原告は、そのようなものを営業秘密と主張するのではなく、これらの工務店のうち、いかなる工務店に原告商品に対する需要があるのかということ、その営業内容、取引銀行、代表者の状況、従業員の状況及び原告商品を販売するに当たっての掛け率等の情報を営業秘密と主張するのであり、このような情報は公然と知られていないものである。

【被告らの主張】

本件情報は、不正競争防止法二条四項所定の営業秘密には該当しない。

1 本件情報のうち、原告が外部に漏洩しないように注意していたのは、本件得意先管理台帳については商品毎の掛け率、本件取引開始申請書についてはクレジット会社に対する関係を除く全部、本件包装別支店ネット表については支店ネット・差益額・差益率であり、その余の情報は外部漏洩が禁じられていたわけではないから、本件各文書に記載された本件情報の全部が秘密として管理されていたわけではない。

2 本件情報は、原告が広島支店を開設した昭和五八年七月頃以降原告の多大な営業努力・販売実績等によって集積してきたものであることは認めるが、現に取引が継続している顧客だけでも二〇〇軒以上存在するとの事実、本件情報が原告にとってきわめて有用な営業上の情報であるとの事実は否認する。

現に取引が継続しているのは、被告岡本がセカイフジを通じてこれら顧客の注文を原告に発注しているからであり、これを除けば原告との間で取引が継続している「顧客」はいない。

3 本件情報のうち前記1記載の原告が外部に漏洩しないように注意していた情報の範囲で、公然と知られていないことは認める。

4 また、別紙顧客目録記載の「顧客」それ自体は、不正競争防止法二条四項所定の営業秘密に該当しない。右「顧客」とは、原告広島支店との間で原告商品の取引のあった、アルミサッシ等の製品を購入することあるべき中小の工務店であり、広島に存在する中小の小売店のうちの二〇〇軒ほどであって、厳密に秘密として管理されていたものでも、公然と知られていないものでもない。

二  争点2((一) 被告岡本らは、本件情報を窃取ないし詐取という不正の手段により取得し、これを使用し、被告会社に開示したものであるか。また、被告会社は、本件情報について右不正取得行為が介在したことを知って被告岡本らからこれを取得し、使用したものであるか。(二) 仮に窃取ないし詐取という不正の手段により取得したものでないとすれば、被告岡本らは、原告から示された本件情報を不正の競業その他の不正の利益を得る目的で自ら使用し、これを被告会社に開示したものであるか。また、被告会社は、本件情報について不正開示行為であることを知って被告岡本らからこれを取得し、使用したものであるか)について

【原告の主張】

1 被告岡本らは、営業秘密である本件情報を窃取ないし詐取という不正の手段により取得し、「アモコーポレーション」の営業に自ら使用し、被告会社にこれを開示したものであり(不正競争防止法二条一項四号)、被告会社は、本件情報について右不正取得行為が介在したことを知って被告岡本らからこれを取得し、使用している(同項五号)。

(一) 被告岡本は、前記第二の一3のとおり、平成三年から原告広島支店の支店長として同支店を統括する地位にあったものであり、本件各文書を保管していたところ、広島支店が平成六年四月三〇日に閉鎖されるに際して、それまで原告が同支店により直接顧客に販売していた原告商品についてセカイフジの広島営業所を原告の一括販売代理店とし、更にセカイフジから自己がその実質的な経営者である「アモコーポレーション」の名称で原告商品を一括して買い受け、これを広島支店の従前からの顧客に販売することとし、同年五月二日、広島支店から本件各文書を搬出し、これを「アモコーポレーション」の事務所に搬入し、原告が広島支店閉鎖まで雇用していた従業員三名を雇用して、営業活動を行い、同年一一月一〇日、被告会社を設立してその代表取締役となり、被告岡本の個人営業を引き継いだ。

このように、被告岡本は、自ら経営する「アモコーポレーション」の営業に使用するために、原告の事前・事後の承諾を得ることなく本件各文書を原告広島支店から搬出し、「アモコーポレーション」の事務所に搬入し、原告からの返還要求にも応じずその占有を継続していたから、本件情報を窃取ないし詐取したというべきであり、そして、これを自ら使用し、被告会社に開示したものである。

被告らは、原告の専務取締役である原野好繁(以下「原野専務」という)が被告岡本に対し、本件得意先管理台帳及び本件包装別支店ネット表については「使っているのなら預けておく」と言って被告岡本の手元に残していったものであり、本件取引開始申請書については「必要ないので処分せよ」と指示した旨主張するが、そのような事実は存しない。原野専務は、平成六年六月二一日には、「アモコーポレーション」が被告岡本経営の偽装会社であることを確認しに行っているのであるから、原告の最重要書類である本件得意先管理台帳及び本件包装別支店ネット表を被告岡本に「預けておく」ことなどありえない。原野専務が「アモコーポレーション」に赴いた際、被告岡本は不在であり、右各文書を引き揚げようとしたところ、事務員から「これを使って顧客への伝票処理を行っているので困る」と言われたので、仕方なく置いてきたにすぎない。本件取引開始申請書についても、原告は、後記のとおり、被告岡本の画策を信用し、広島支店閉鎖後もその提案どおりの取引形態で広島地域における販売を継続しようとしていたのであるから、そのためにきわめて重要な本件取引開始申請書を「必要ないので処分せよ」と指示することなどありえない。

(二) 被告渡辺は、被告岡本から前記事情の説明を受け、同被告が原告の保有する本件各文書を窃取ないし詐取することを知りながら、本件各文書の搬出・搬入を幇助し、実体に反して自己が「アモコーポレーション」の代表者であると称し、被告岡本による本件各文書の不正取得行為に加担した。

(三) 被告会社は、本件情報について被告岡本らによる不正取得行為が介在したことを知って被告岡本らから取得し、これを自己の営業に使用しているものである。

(四) 被告らは、原告が原告広島支店を閉鎖したのは広島支店における原告商品の販売が停滞し、支店レベルの収支が赤字となったためであり、原告は広島支店閉鎖後広島での販売継続の予定は立てていなかった旨主張するが、同支店を閉鎖するよう原告に進言したのは被告岡本であり、同支店閉鎖後セカイクジを通じて広島地域で従来どおりの販売を継続する計画のお膳立てをしたのも被告岡本である。原告は、被告岡本の広島支店を閉鎖すべき旨の提案を受けて社内で検討したが、広島支店は支店レベルでの収支は赤字であったものの、本社レベルでの収支は黒字であり、閉鎖の必要はないとの判断に至った。しかしそれにもかかわらず、被告岡本は、原告に内密にセカイフジに原告の代理店となることを依頼した上、本社の売上げを落とさずに商売の継続を図る方法として、代理店としてセカイフジに販売を請け負わせ、更にセカイフジから「ある会社」に商品が卸されるようにし、「ある会社」に販売を委託するという販売方法を採用することを提案し、広島支店の閉鎖を強く進言した結果、現場責任者の申出を尊重する原告の方針から、被告岡本提案の販売方式が採用され、広島支店閉鎖という事態になったのである。原告としては、右の「ある会社」が被告岡本の「アモコーポレーション」ないし被告会社であると知っていれば、右のような販売方式は採用しなかったものである。

右のように支店レベルでの収支が赤字であっても、本社レベルでの収支は黒字である理由は、住宅設備機器等のメーカーである原告は、製品製造のために主としてアルミ材を原材料として購入し、これを加工していく工程で、種々の付加価値毎に単価設定を行い、本社工場からの出し値をもって支店渡し値とし、各支店が右工場出し値に更に各支店毎の経費や顧客毎の差益率を考慮した利益率を出すため、仮に支店単位では赤字になっていても、工場出し値に本社の利益を乗せている関係上、右利益をもって支店の赤字を補填することが十分可能であるからである。広島支店は、右のように本社の利益をもって赤字を補填することが可能な場合であったから、閉鎖までは考える必要がなかったのである。したがって、本社レベルでも赤字であり、原告自身の判断により閉鎖措置をとった名古屋支店の例を挙げて原告の対応を非難する被告らの主張は理由がない。

このように、被告岡本は、当初から原告の重要な営業上の情報を不正に使用して利益を図るため、広島支店長としての地位を利用して、支店レベルでは赤字であっても本社レベルでは黒字であって本来閉鎖する必要のない広島支店の閉鎖を強く申し出ることにより、広島支店の閉鎖に懐疑的であった原告の代表取締役以下の幹部社員を欺いて同支店を閉鎖させたのである。

2 仮に被告岡本らが本件情報を不正の手段により取得したとはいえないとしても、被告岡本らは、原告から示された本件情報を不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、「アモコーポレーション」の営業に自ら使用し、被告会社にこれを開示したものであり(不正競争防止法二条一項七号)、被告会社は、本件情報について不正開示行為であることを知って被告岡本らからこれを取得し、使用している(同項八号)。

(一) 被告岡本は、原告の従業員であった頃から、自己の利益を図るため、原告に秘密裏に被告会社の設立・営業開始の準備をしていたものであり、原告の代表取締役以下の幹部を欺いて広島支店を閉鎖するに至らせ、原告からセカイフジへの原告商品の卸値(掛け率)を低く設定し、更に原告を欺岡して本件備品を本件各文書とともに広島支店から持ち出しこれを「アモコーポレーション」ないし被告会社の営業のため使用し、従前の原告従業員をそのまま雇用し、広島支店の電話を「アモコーポレーション」に転送されるようにするなどしているのであり、その結果、原告は、従来の顧客を把握することができなくなり、一県二代理店主義の営業方針を立てて広島支店閉鎖前よりセカイフジ以外の三社(クラタクリエイト、高千穂金物、アキ建商)との間で代理店契約の交渉を計画していたのに、「アモコーポレーション」ないし被告会社があたかも原告の特約代理店であるかのようにみられて原告が広島地域において代理店契約を締結することが困難となり、セカイフジと不利な条件で取引せざるをえなかったなど、営業活動を阻害された。

被告岡本らの右一連の行為をみれば、被告岡本らが営業秘密である本件情報を使用し、被告会社に開示するについて、不正の競業その他の不正の利益を得る目的があったというべきであり、被告会社は、不正開示行為であることを知って被告岡本らから本件情報を取得し、これを使用したものというべきである。

(二) 被告らは、被告岡本が商品の購入方を勧誘したことのある別紙顧客目録記載の業者は被告岡本が原告広島支店に勤務していたときから面識があり記憶していたものであるから、右勧誘行為は本件情報を使用する行為とはいえない旨主張するが、被告岡本が原告広島支店に勤務していたときから面識があった顧客であるとしても、当該業者とそのような面識ができたのも被告岡本が原告に勤務していたからであるから、右顧客に関する情報は原告から被告岡本に開示された営業上の情報であり、これを不正な目的で使用する行為は不正競争行為に当たる。

3 このように、被告らは、本件情報を現に使用し、原告商品の販売を継続して利益を上げており、また、本件情報をセカイフジや他の競業者・顧客等に開示することを企てている。

確かに本件情報を記載した本件得意先管理台帳及び本件包装別支店ネット表自体は原告に返還されたが、右各文書がいったん被告らの手に渡った以上、これをコピーすることはいくらでも可能であり、右各文書が返還されたからといって、被告らが営業秘密たる本件情報の使用を止めたということにはならない。

【被告らの主張】

1 仮に本件情報が営業秘密に当たるとしても、被告岡本は、本件各文書を不正の手段により取得したものではない。

(一) 被告岡本が本件各文書を窃取ないし詐取したとの事実は否認する。

本件得意先管理台帳及び本件包装別支店ネット表については、被告岡本が「アモコーポレーション」の設立稼働を始めた後である平成六年六月二一日に、「アモコーポレーション」を訪れた原野専務に対しこれを返還しようとしたところ、原野専務は、「使っているのなら預けておく」と言つて被告岡本の手元に残していったものであり、本件取引開始申請書については、被告岡本は、原告広島支店閉鎖時に原野専務に対し大阪支店に郵送して返還する旨申し出たところ、原野専務から「必要ないので処分せよ」との指示を受けたため、その頃右指示に基づき廃棄処分した。

(二) 被告渡辺は、被告岡本が「アモコーポレーション」を始めた時にはまだ原告の従業員であったために、被告岡本に頼まれて代表者として名義を貸したにすぎず、「アモコーポレーション」にも被告会社にも実質的な関与は全くしていない。

(三) 原告が広島支店を閉鎖したのは、広島支店における原告商品の販売が停滞し、支店レベルの収支が赤字となったためであり、原告は、広島支店閉鎖後広島での販売継続の予定は立てていなかった。被告岡本が「アモコーポレーション」の名称で住宅設備機器等の販売業を営むに至ったのは、広島支店の閉鎖に伴い、原告が広島地域での販路を失い、また、広島支店の従業員も失職することになることを憂慮したためである。被告岡本は、まず、セカイフジに原告の代理店として広島支店の従来の顧客管理をするよう依頼したが、住宅機器の卸会社であるセカイフジでは営業活動を含めた顧客管理はできないとのことであったので、セカイフジの勧めもあって、解雇された従来の広島支店の従業員を伴って「アモコーポレーション」を始め、従来の顧客(その殆どが広島市内の中小の工務店である)を中心に原告商品の注文を取り、セカイフジを通して原告に発注することにより、広島に原告商品の販路を残し、同時に従業員の雇用をも図ったものである。

このような形態は、平成五年一二月に閉鎖された原告名古屋支店でも同様にとられている。すなわち、名古屋支店においては、同支店従業員であった桜井正己が独立して販売会社新和サービス(本件の「アモコーポレーション」に相当)を興し、株式会社井上定名古屋支店(本件のセカイフジに相当)を通じて原告商品を発注し、これを販売しており、そして、原告名古屋支店で使用していた得意先管理台帳や包装別支店ネット表を新和サービスで引き続き利用しているのである。しかるに、原告は右桜井に対しては本件のような訴えを起こしていないから、本件訴えが理由のないものであることは明らかである。原告は、平成六年四月三〇日の広島支店閉鎖の前に、東京支店、名古屋支店、九州支店を閉鎖し、その後も四国支店、大阪支店(営業本部)というようにすべての支店を閉鎖しており、代理店形式により原告商品を販売してもらう予定をしているのであるが、本件のケースが右名古屋支店のケースと異なるのは、被告岡本が事前に原告に対して、原告を辞めて名古屋と同じようにやる旨告知しなかったという点だけであり、本件訴えは、勝手に原告を辞めた被告岡本に報復しようとするものである。

原告は、被告岡本は本社レベルでは黒字であって本来閉鎖する必要のない広島支店を原告の代表取締役以下の幹部社員を欺いて閉鎖させた旨主張するが、原告は本社レベルでは黒字であるとの意味内容につき具体的に特定できないままであるし、広島支店に前後してすべての支店を閉鎖していることからして、広島支店のみは存続しえたかのごとき主張は、信用できない。のみならず、原告は、「一県二代理店主義の営業方針を立てて広島支店閉鎖前よりセカイフジ以外の三社との間で代理店契約の交渉を計画していた」と主張し、原告としても広島支店の閉鎖を予定していたものであることを自認している。原告は、被告岡本は自己の利益を図るため原告からセカイフジへの原告商品の卸値(掛け率)を低く設定したとも主張し、この卸値が原告広島支店閉鎖前に原告本社から広島支店に卸していた価格(原告のいう「支店渡し値」)より低いと主張するようであるが、代理店形式をとるのであれば、流通過程に第三者が入りその中間マージンが必要となるから、直接支店に卸すより価格を低く設定しなければならないことは必然である(例えば、名古屋支店についても、同支店閉鎖後に卸値が低く設定されているようである)。

2 被告らは、本件情報を使用したことも開示したこともない。使用、開示したことがあるとしても、不正に使用、開示したものではない。

(一) 確かに、被告岡本は、「アモコーポレーション」の名称で住宅関連設備機器の販売業を営み、原告広島支店の顧客であった工務店の相当数に対し住宅関連設備機器についての営業活動をし、セカイフジを通じて、原告商品も販売納入しているが、右営業活動に際して本件情報を使用しているわけではない。販売単価や利益率などは本件取引開始申請書や本件包装別支店ネット表記載の「掛け率」とは全く無関係に、セカイフジとの契約及び自己の判断によって決定したものであり、本件情報が必要なわけではない。

被告岡本は、本件各文書に記載された別紙顧客目録記載の顧客のうちいくつかの業者に対し「アモコーポレーション」の取り扱う商品の購入方を勧誘したことはあるが、これは、本件各文書を使用して初めてなしえたというわけではなく、被告岡本が原告広島支店に勤務していたときから面識があり記憶していたからなしえたにすぎないから、右勧誘行為は(少なくとも第三者の製造する商品については)、原告と競合する営業行為とはいえたとしても、本件情報を使用する行為とはいえない。法律上競業避止義務が課されていない被告岡本に対し、営業秘密の侵害行為であるとしてこのような勧誘行為を禁ずることは、職業選択の自由を侵害することになる。

更にいえば、原告は、広島において被告岡本の行う勧誘行為(営業行為)と競合する営業活動を行っておらず、これを行う予定もないから、被告岡本の勧誘行為は、原告と競業する営業行為ですらない(原告が広島で行う営業活動とは、原告本社の営業社員が、商社であるセカイフジに原告商品を取り扱ってくれとセールスすることだけであり、セカイフジでは、被告岡本に「原告商品の注文を取ってくれ」と機会があれば声をかけるということになる)。

(二) 「アモコーポレーション」がセカイフジを通して原告商品を発注していたのは平成六年七月下旬頃までであり、それ以降は、原告商品は全く取り扱っていない。「アモコーポレーション」ないし被告会社の営業内容は、増改築、外構工事、ソーラー工事の請負が主たるものであるから、工事請負に関連してテラス、バルコニーなどの原告商品と同種のアルミエクステリア商品を発注することもあるが、すべて原告以外のメーカーに発注している。

三  争点3(被告らが損害賠償義務を負う場合に、原告に対し賠償すべき損害の額)について

【原告の主張】

1 不正競争防止法四条に基づく請求

原告は、被告らの不正競争行為により次の(一)ないし(三)の各損害を被ったので、右損害額のうち四〇七万七二七八円を請求する。

(一) 被告岡本は、原告広島支店閉鎖後の「アモコーポレーション」ないし被告会社における営業活動を有利に運ぶために、支店長であるうちに原告からセカイフジへ原告商品を卸す際の掛け率を低く設定した。そのため、原告は、広島支店閉鎖後は、閉鎖前に同支店へ供給していた時期の掛け率よりも低い掛け率でセカイフジへ原告商品の供給を続けなければならなくなり、広島支店閉鎖前の掛け率と閉鎖後の掛け率との差額相当の損害を被った。

右差額相当の損害額を算定するには、具体的には、個々の顧客に対する各ネット掛け率及び売上高を算出し、それらの広島支店閉鎖前後の数値を比較する作業が必要であり、右作業は容易に行い難いが、右差額は従前の原告の売上額の約三%程度と考えられるので、この割合にて算出することとする。

原告は、広島支店において一か月平均約一二〇〇万円の売上げを得ていたから、原告が広島支店を閉鎖していなかったとすれば、同支店を閉鎖した平成六年四月三〇日から平成八年八月三一日までの二八か月間に合計約三億三六〇〇万円の売上げを得ていたはずであり、したがって、右売上高の三%に相当する約一〇〇八万円が右差額相当の損害額ということになる。

(二) 原告は、本件情報を記載した本件各文書のすべてを被告岡本に窃取ないし詐取されたため、本件情報の内容を確認できなくなった。また、「アモコーポレーション」ないし被告会社は、他の同業者からすればあたかも原告の特約店として営業しているように見え、その結果、原告が代理店を探すのに支障を来した。そのため、原告は、事実上他の代理店を探すことができなくなり、「アモコーポレーション」ないし被告会社の仕入先であるセカイフジとのみ取引せざるをえなくなり、より低率の掛け率での販売を余儀なくされた。

この損害額も、算定が容易でないが、原告の従前の売上額の約三%程度と考えられるので、右(一)と同様、約一〇〇八万円ということになる。

(三) 原告は、セカイフジの背後に「アモコーポレーション」ないし被告会社が存在していることを知ったため、平成八年四月セカイフジとの取引を停止したが、右(二)のとおり他の代理店を探すことも困難であり、その間に時間が過ぎてしまった結果、広島における殆どの顧客を失ってしまった。

その損害額は、原告が右のとおりセカイフジとの取引を停止してから同年八月三一日までの間原告が従前(広島支店閉鎖前)どおり営業していれば得られたであろう利益額に相当する。

原告は、右(一)のとおり広島支店において一か月平均一二〇〇万円の売上げを得ていたのであり、その際の原告の利益は売上額の約一〇%と考えることができるから、セカイフジとの取引を停止した翌月の平成八年五月から同年八月三一日までの四か月間従前どおり営業していれば、約四八〇万円(一二〇〇万円×一〇%×四か月=四八〇万円)の利益が得られたはずであり、原告はこれを得られなかったことにより同額の損害を被った。

2 不正競争防止法四条、五条一項に基づく請求

「アモコーポレーション」ないし被告会社は、原告がセカイフジに納入した原告商品のすべての供給を受け、これに約一〇%の利益を乗せて各顧客へ販売していたものと考えられるところ、原告が広島支店を閉鎖した平成六年四月三〇日から平成八年八月三一日までの間にセカイフジへ卸した原告商品の売上額は、平成六年五月から八月までの分の三六一八万一九八九円、平成六年九月から平成七年八月までの分の三七六九万六七四三円、平成七年九月から平成八年四月までの分の二一万九五一三円の合計七四〇九万八二四五円であるから、「アモコーポレーション」ないし被告会社は、右期間中に右と同額の原告商品を販売し、その一〇%に当たる七四〇万九八二四円の利益を得たものと考えられる。

不正競争防止法五条一項により、右利益の額は原告が被った損害の額と推定されるので、原告は、右損害額のうち四〇七万七二七八円を請求する。

3 不正競争防止法四条、五条二項三号に基づく請求

本件情報のような顧客ネットの情報をも含むものとしての顧客名簿の使用料(ロイヤリティー)は、少なくとも右顧客に対する売上額の三%とするのが相当と考えられる。

したがって、本件情報の使用料相当額は、前記2の「アモコーポレーション」ないし被告会社の売上額七四〇九万八二四五円の三%に相当する二二二万二九四七円であり、原告は、不正競争防止法五条二項三号により、右と同額を自己の被った損害の額として賠償を請求することができる。

【被告らの主張】

損害についての原告の主張は、いずれも主張自体失当というべきものであり、その主張の損害は、原告のいうところの営業秘密の侵害行為と因果関係がなく、あるいは立証がない。

1(一) 原告は、被告岡本の進言があったとはいえ、自らの判断で赤字であった広島支店の閉鎖を決定したのであるから、その後に被告岡本が独立した自営業者として原告商品を販売して得た利益に相当する額をもって原告の被った損害とする立論自体全く首肯しかねるものである。

その点はさておくとしても、原告は、「アモコーポレーション」ないし被告会社がセカイフジを通じて原告に原告商品を発注していることを知って、セカイフジに原告商品を販売し、それによって利益を得ていたのであるから、損害は生じていない。広島支店閉鎖前の掛け率と閉鎖後の掛け率との差額を従前の原告の売上額の約三%とする根拠も立証もない。

(二) 原告は、「アモコーポレーション」ないし被告会社の仕入先であるセカイフジとのみ取引せざるをえなくなり、より低率の掛け率での販売を余儀なくされたと主張するが、セカイフジとのみ取引せざるをえなくなったことと営業秘密の侵害行為とがどう結びつくのか不明であり、その損害を原告の従前の売上額の約三%程度とする根拠も立証もない。

(三) 原告は、セカイフジとの取引を停止した結果、広島における殆どの顧客を失ってしまったことにより損害を被った旨主張するが、「セカイフジとの取引を停止した結果、広島における殆どの顧客を失ってしまった」というのであれば、セカイフジとの取引を停止しなければよかったのであり、広島支店における従前の原告の利益は売上額の約一〇%であるとする根拠も立証もない。

2 原告は、不正競争防止法五条一項に基づく請求もするが、原告は原告商品をセカイフジに販売することにより利益を得ているのであるから、右推定規定適用の余地はない。

3 更に、原告は、不正競争防止法五条二項三号に基づき本件情報の使用料(ロイヤリティー)相当額の損害賠償も請求するが、「顧客名簿の使用料」(ロイヤリティー)なるものが請求できるとする根拠も立証もない。

四  争点4(被告岡本らは、本件備品を窃取ないし詐取したものであるか)について

【原告の主張】

1(一) 被告岡本は、原告広島支店閉鎖に伴い本件備品を処分するについて、原告担当者に対し「これらは中古業者に無料で引き取らせる以外、処分方法がない」旨虚偽の事実を申し向け、その旨誤信させて本件備品を無償で処分することを承諾させ、平成六年五月二日、広島支店から本件備品を搬出し、これを自己の経営する「アモコーポレーション」の事務所に搬入して窃取ないし詐取した。原告としては、被告岡本が本件備品を使用する旨告げていれば、決して承諾を与えなかった。

(二) 被告渡辺は、被告岡本から事情の説明を受け、同被告が原告の所有する本件備品を窃取ないし詐取することを知りながら、本件備品の搬出・搬入を幇助した。

2 原告が原告広島支店を閉鎖するに当たって本件備品を含む同支店の什器・備品の処分を被告岡本に指示したことは認める。しかし、原告は、当然のことながら、被告岡本が原告の従業員として原告に最大限利益になるよう処分することを指示したのであり、まだ十分使用に耐えうる物品を廃棄処分以外にないと偽りの報告をし、原告に無断で領得するような処分をすることを指示したのではない。

【被告らの主張】

原告が返還を求める本件備品につき、被告岡本らに返還義務はない。

1(一) 本件備品は「中古業者に無料で引き取らせる以外、処分方法がない」というのは、虚偽の事実ではなく真実であり、被告岡本は本件備品を窃取ないし詐取したものではない。

被告岡本は、平成六年四月三〇日に原告広島支店が閉鎖されるに当たって、原告から、本件備品を含む同支店の什器・備品の処分を一任された。被告岡本が古物商に右物品を見積もらせたところ、いずれも換価不能で引き取らせるのに費用がかかり、普通乗用車についても価値はなく廃車処分するのに費用がかかるとのことであったため、原告大阪支店の原野和也に相談した結果、一部の物品を大阪支店に送付し、残った物品はなるべく費用のかからない方法で処分するよう指示されたので、被告岡本は、「アモコーポレーション」にて引き取ったものである。

したがって、被告岡本は、原告広島支店の什器・備品の処分を原告から委ねられ、交換価値のないものであることを確認した上で、「アモコーポレーション」で利用できるものは利用したのであり、原告は、交換価値のないものについてはその所有権を放棄したといえるから、原告による本件備品の返還請求は認められるものではない。

(二) 被告渡辺が本件備品の搬出・搬入を幇助したとの事実は否認する。

2 本件備品(別紙物件目録(二))については、以下に指摘するもの以外を被告岡本が占有していることは認める。

(一) 一の乗用車は、元の車両番号が「和泉52ち一五六五」であって、これを原告の承諾のもとにいったん廃車にしたものである。

(二) 台数について、二の机は一台、三の机は六台、四の肘付椅子は一台、五の肘無椅子は六台、三一のパーテーションは四台である。

(三) 一九の会議用椅子、二二の営業用机、二三ないし二六のホワイトボード、二九の黒板、三二ないし三四のパーテーションは、一台も占有していない。

第四  争点に対する判断

一  争点1(本件情報は、不正競争防止法二条四項所定の「営業秘密」に当たるか)について

1  前記争いがない事実(第二の一2)並びに証拠(甲三ないし六、九の1、乙一、証人原野好繁、被告岡本)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告においては、本件情報の記載された次の三種類の文書すなわち本件各文書を作成していたところ、これが原告の顧客に関する文書のすべてであった。

(1) 本件取引開始申請書(甲四)は、原告と取引を開始しようとする顧客に記載してもらうものであって、原告との間の継続的取引に関する契約書である取引約定書(甲六)と合わせてB4判一枚の用紙になっている。本件取引開始申請書には、顧客の会社名(商号)・所在地・電話番号・資本金の額・創業年月・設立年月(個人の場合、創業年月・生年月日)・営業内容(年商、主な仕入先、販売先等)・取引銀行・従業員数、代表者の氏名・自宅住所・電話番号・家族構成・資産状態・略歴、当該顧客についての取引条件・決済方法・必要書類・与信限度(当該顧客に対して売上げ可能な月間販売額であって当該支店において決定するもの)・商品毎の掛け率(上代価格の何%で当該顧客に販売するかという割合で、当該支店において決定するもの)、及び担当者所見が記載されている。

(2) 本件得意先管理台帳(甲三)は、本件取引開始申請書を基に顧客毎に作成されるものであって、商品毎の掛け率のほか、顧客の名称・代表者名・電話番号・ファクシミリ番号・住所、与信限度・締切日・請求期日・回収日・決済方法及び担当者が記載されている。

(3) 本件包装別支店ネット表(甲五)は、商品毎のコード番号・包装名称・色、上代価格、支店ネット価格(本社から各支店へ計算上卸す渡し値)、顧客に対する販売単価を上代価格に各掛け率(例えばバルコニーJNBホワイトについていえば二四%、二五%、二六%、二七%、二八%)を乗じて設定した各場合の販売単価・差益額(販売単価から支店ネット価格を差し引いた支店レベルでの粗利益)・差益率(差益額が販売単価に占める割合)が掲載されており、支店において顧客毎に右各掛け率のいずれかを適用すべく決定するものである。こうして決定した掛け率が前記のとおり本件取引開始申請書及び本件得意先管理台帳に記載されることになる。支店ネット価格は、当該商品の原材料費、加工賃その他の諸経費に本社の利益を加算した額として原告(本社)が定めるものである。

(二) 原告は、本件各文書及びこれと同種の各文書を各顧客と直接接する立場にある各支店において保管させていたところ、その取扱いについては、支店長会議等の機会に各支店長に対し、これらの各文書が社内の重要機密書類である旨認識させるべく指示、指導するとともに、一般社員に対しても、支店長を通じて、複写及び社外持出しを禁止する旨口頭で指示、指導をしており、そして、得意先管理台帳及び包装別支店ネット表は、売上伝票発行の際に必要であることから当該業務に携わっている事務員に保管させていたが、取引開始申請書については支店内の支店長席近くの書庫(ロッカー)に入れて保管するよう指示していた。したがって、支店長を除き従業員三名(営業社員二名、事務員森妃生美)の広島支店においても、本件各文書は右のようにして保管されていた。

2(一)  右1認定の事実によれば、本件各文書はいずれも広島支店内において、本件取引開始申請書については支店長席近くの書庫(ロッカー)に入れて保管し、本件得意先台帳及び本件包装別支店ネット表については売上伝票発行の際に必要であることから当該業務に携わっている事務員(森妃生美)に保管させていたものであるが、原告は、広島支店長である被告岡本に対し、本件各文書が社内の重要機密書類である旨認識させるべく指示、指導するとともに、他の同支店従業員に対しても、被告岡本を通じて複写及び社外持出しを禁止する旨口頭で指示、指導をしていたというのであるから、従業員が支店長を含めて四名という同支店の規模も考慮すれば、本件各文書に記載された本件情報はすべて秘密として管理されていたということができる。

被告らは、本件情報のうち原告が外部に漏洩しないよう注意していたのは、本件得意先管理台帳については商品毎の掛け率、本件取引開始申請書についてはクレジット会社に対する関係を除く全部、本件包装別支店ネット表については支店ネット・差益額・差益率のみである旨主張する。しかし、本件各文書には、それぞれ前記1(一)の(1)、(2)及び(3)認定の事項が一体として記載されているものであって、それらが全体として秘密として管理されていることが明らかであるから、被告らの右主張は採用できない。

(二)  本件情報は原告が広島支店を開設した昭和五八年七月頃以降原告の多大な営業努力・販売実績等によって集積してきたものであることは、当事者間に争いがなく、その内容に照らして原告の事業活動に有用な営業上の情報であるということができる。

被告らは、別紙顧客目録記載の「顧客」とは、原告広島支店との間で原告商品の取引のあった、アルミサッシ等の製品を購入することあるべき中小の工務店であり、広島に存在する中小の工務店のうちの二〇〇軒ほどであって、厳密に秘密として管理されていたものでも、公然と知られていないものでもないと主張する。確かに、本件各文書に記載された別紙顧客目録記載の工務店等が広島地域内に存在するという事実自体は公然知られた客観的な事実であるが、別紙顧客目録記載の「顧客」が営業秘密とされるのは、そのように広島地域内に客観的に存在している工務店等のうち、原告と取引のある、換言すれば原告商品に対する需要のある工務店等をまとめて列挙したものであるが故であって、かかる事項は、前示のとおり、秘密として管理され、公然と知られていない情報であるということができるのである。

(三)  本件情報のうち、本件得意先管理台帳については商品毎の掛け率、本件取引開始申請書についてはクレジット会社に対する関係を除く全部、本件包装別支店ネット表については支店ネット・差益額・差益率が公然と知られていないものであることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によればその他の事項も公然と知られていないものであると認められる。

3  したがって、本件各文書に記載された本件情報は、不正競争防止法二条四項にいう営業秘密に当たるというべきである。

二  争点2((一) 被告岡本らは、本件情報を窃取ないし詐取という不正の手段により取得し、これを使用し、被告会社に開示したものであるか。また、被告会社は、本件情報について右不正取得行為が介在したことを知って被告岡本らからこれを取得し、使用したものであるか。(二) 仮に窃取ないし詐取という不正の手段により取得したものでないとすれば、被告岡本らは、原告から示された本件情報を不正の競業その他の不正の利益を得る目的で自ら使用し、これを被告会社に開示したものであるか。また、被告会社は、本件情報について不正開示行為であることを知って被告岡本らからこれを取得し、使用したものであるか)について

1  証拠(甲一、二、七、八、九の1・2、一〇、一一の1~188、一二の1・2、乙一、二の1~4、五の1~48、七、証人原野好繁、被告岡本)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 被告岡本は、平成三年に原告本社の営業部長に兼ねて就任する前の平成元年一月から広島支店(昭和五八年七月開設)の支店長になり、同支店を統括する責任者として本件各文書に記載された別紙顧客目録記載の九五軒の顧客に営業のために日常的に接するとともに、自ら同支店における顧客の開拓業務にも従事してきたものであり、右顧客の中には被告岡本自身が開拓した顧客も相当数含まれていた。そのため、広島地域においてどの工務店等が原告広島支店の顧客であるかは、本件取引開始申請書や本件得意先管理台帳によるまでもなく、被告岡本の記憶しているところであった(なお、被告岡本は、原告本社の営業部長に兼ねて就任すると同時に、九州支店及び四国支店の業務を統括する職務も担当することになった)。

また、本件情報のうち原告が特に重要であるとする(証人原野好繁)本件取引開始申請書及び本件得意先管理台帳に記載されている掛け率は、広島支店の営業社員又は支店長たる被告岡本が工務店等と取引を開始するに当たり本件包装別支店ネット表掲載の差益額等を基礎に交渉し、支店長たる被告岡本の責任において決定していたものである。このことは、他の各支店においても同様である(但し、原告本社において掛け率の最低ラインを指示していたので、これを下回る掛け率を設定することはできなかった)。

原告は、一番多いときで全国に七支店(東京、名古屋、大阪、岡山、広島、四国、九州)を有し、販売部門に約五〇名の従業員を擁して各支店を通じて直接顧客に原告商品を販売するいわゆる直販体制をとっていたが、支店維持に要する固定経費を削減するため、次第に、支店を廃止して、従来の顧客である工務店等を代理店とし、これを通じて販売するという販売代理店方式に切り替えていった。

こうして、原告は、広島支店閉鎖前に、東京支店、岡山支店を閉鎖し、続いて平成六年一月三一日をもって名古屋支店を、同年三月三一日をもって九州支店を各閉鎖した(なお、広島支店閉鎖後も、四国支店を閉鎖したのに引き続いて平成七年四月三〇日をもって大阪支店を閉鎖し、これをもって原告の支店はすべてなくなるに至り、同年九月現在の販売部門の従業員数は一四名〔製造部門を合わせて従業員数は三〇名強〕となった)。

(二) ところで、平成五年一二月、名古屋支店を平成六年一月三一日をもって閉鎖することが決定され、続いて、平成六年初め頃、九州支店及び広島支店についてその閉鎖が議題に上り、九州支店は閉鎖することが決定された。広島支店長の被告岡本は、広島支店についても、同支店における収支が赤字であることを理由に、かねて同支店を閉鎖した上でセカイフジを代理店として広島地域における従前の顧客に対し販売を継続することを提案してきた。被告岡本は、原告本社で開催された支店長・幹部会議において、広島支店の平成五年一一月から平成六年二月までの損益が赤字のまま推移していることを表す支店別損益明細表(乙二の1~4)を示して広島支店を閉鎖すべきことを主張した。これによれば、広島支店の損益は、平成五年一二月度で一八一万一一七九円の損失、同年一一月度で二八三万三一三九円の損失、平成六年一月度で三五一万四五四九円の損失、同年二月度で五八四万五八二一円の損失であり、同月度までの損失累計は一七七二万一一八六円に上っていた。

これに対し、原告代表取締役は、その席上、原告本社から支店に対する渡し値(支店ネット価格)には本社の利益が上乗せされており、広島支店においては支店レベルでは赤字であっても本社レベルでは利益を上げていてその赤字を吸収できるから、閉鎖するには及ばないと被告岡本に反論した。被告岡本は、原告の従前の売上げを落とさずに商売を継続する方法があるとし、その具体的方策として、セカイフジを広島地域における原告商品の販売代理店とするが、「セカイフジは、エクステリアの工事力がないため従来の販売先を管理するというのは難しい。そこで、従来の販売先の中で工事能力があるところで当社が従来販売していた顧客を管理したいという会社があるので、そこに顧客管理を委託し、商品については当社からセカイフジに販売し、セカイフジからその会社に販売する。広島支店の電話はその会社に転送し、その会社で対応する。」との提案をしたため、最終的には原告代表取締役もこれを了承し、同年四月三〇日限り広島支店を閉鎖することが決定された。

一方、被告岡本は、平成六年初め頃から原野専務等に対し、静岡にいる衣類関係の仕事を行っている身内の手伝いをしたいという理由で原告を退職したい旨の意思を表明していたが、右の販売代理店となるべきセカイフジの販売先である会社というのは実は被告岡本の設立する会社(「アモコーポレーション」ないし被告会社)であり、自らセカイフジの下店として、広島地域の顧客から原告商品の注文を取ってセカイフジを通じて原告に発注する仕事を行うつもりであることは、一切原告に告知していなかった。そして、被告岡本は、「アモコーポレーション」の業務を行うに際し、自己がその代表者になっていることを原告に隠すため、友人である被告渡辺に依頼して名義上だけ「アモコーポレーション」の代表者になってもらうこととし、同被告に「アモコーポレーション 代表」という肩書の名刺(甲二)を持たせたりした。

(三) 原告は、平成六年四月三〇日、広島支店を閉鎖するとともに同支店従業員三名を解雇し、被告岡本は、右従業員をそのまま「アモコーポレーション」の従業員として雇用して同年五月二日、「アモコーポレーション」の営業を開始し、セカイフジの下店として、セカイフジを通じて原告に原告商品を発注し、これを従前の原告広島支店の顧客に販売するようになった。そして、被告岡本は、元の広島支店に掛かってくる電話を「アモコーポレーション」に転送するなどして、同支店の従前の顧客を引き継ぎ、営業活動を行った。

一方、原野専務は、同年五月初旬に広島支店から原告大阪支店に送付されてきた書類の中に本件得意先管理台帳及び本件取引開始申請書がなかったので、被告岡本に問い合わせたところ、同被告から従来の顧客を管理する会社に渡したとの報告を受け、これを一応了解した。その後、原告の原野専務は、新たに広島地域の代理店になったセカイフジから原告に対する商品の注文のほとんどが、従前と異なり運送会社の支店止めとされていること、セカイフジの発注書(甲一一の1~188)の筆跡が元の広島支店の事務員森妃生美のものとよく似ていたこと、被告岡本が説明していた顧客を管理するという会社に直接電話を入れたところ、電話に出た者の声質が右森のものとよく似ていたことなどに不審を感じたので、同年六月二二日、「アモコーポレーション」の事務所を訪れ、森を含む「アモコーポレーション」の従業員三名の立会いのもと、森の机で本件得意先管理台帳を、森を含む三名の机で本件包装別支店ネット表を発見した。同人らは、これらが原告広島支店から移管したものであることを認めた。原野専務は、本件得意先管理台帳及び本件包装別支店ネット表を持ち帰ろうとしたが、森からこれらは顧客に対する売上伝票を発行するのに使用しているので持ち帰っては困るとの申出があったため、その申出を尊重して、それなら残しておくという趣旨の発言をしてそのままにしておいた。本件取引開始申請書は、同支店閉鎖の際被告岡本が廃棄してしまっていたので、森からその旨の説明があった。また、「アモコーポレーション」の実際の代表者が誰であるかについて、従業員三名は、当初は被告渡辺であると説明していたが、結局、被告渡辺は名前だけで、被告岡本が実際の代表者であることを認めるに至った。

(なお、被告らは、このように原野専務が本件得意先管理台帳及び本件包装別支店ネット表を「アモコーポレーション」に残していった経緯について、被告岡本が原野専務に対しこれを返還しようとしたところ、原野専務が「使っているのなら預けておく」と言ったと主張し、乙第一号証〔被告岡本の陳述書〕には、原野専務から「持ち帰ってもよいか」と問われたので、森が「持って帰ってもいいです。」と答えたところ、「使っているのなら、預けておきます。」と言われた旨の記載があるが、乙第一号証記載の右陳述内容は、原野専務と「アモコーポレーション」の従業員である森との対話内容としてそれ自体不自然であり、証人原野好繁の証言と対比して信用できない。)

(四) 原告は、平成六年五月以降、セカイフジとの取引を続けていたが、右のとおりセカイフジの下店が被告岡本の経営する「アモコーポレーション」であることを知ったため、本件訴え提起後間もなくの同年八月、「アモコーポレーション」向け原告商品についてセカイフジとの取引を停止したので、以後、「アモコーポレーション」ないし被告会社は、他のメーカーのエクステリア商品を取り扱っている。原告は、セカイフジとの取引自体はその後も継続していたが、次第に取引を縮小し、平成八年四月をもって取引を打ち切った。

(五) 被告岡本は、本件得意先管理台帳に記載された顧客の名称、住所、掛け率、与信限度額等をセカイフジに知らせたが、原告の請求に応じて、本件訴訟係属中の平成七年六月下旬、原告訴訟代理人を通じて本件得意先管理台帳及び本件包装別支店ネット表を原告に返却した。

(六) ところで、前記のとおり原告は平成六年一月三一日をもって名古屋支店を閉鎖したが、その際、原告は、株式会社井上定名古屋支店を名古屋地域における代理店とし、元の原告名古屋支店従業員桜井正己の営む「新和サービス」をその下店として、「新和サービス」が株式会社井上定名古屋支店を通じて原告商品を買い受け、これを原告の従前の顧客に販売するという形態をとり、従前原告名古屋支店にあった得意先管理台帳のコピー及び包装別支店ネット表を「新和サービス」に移管し、同社で使用することを承諾している。同年三月三一日をもって閉鎖した九州支店については、代理店になってもらった株式会社加根又本店に対して同様に得意先管理台帳のコピー及び包装別支店ネット価格表を移管している。

また、原告名古屋支店の閉鎖に際し、被告岡本は、原告が原告商品を代理店に卸す際の掛け率(代理店価格)を原野専務の承認を得て設定し、この代理店価格を株式会社井上定名古屋支店に提示した。原告は、株式会社加根又本店その他の代理店に対しても同じ掛け率を提示している。

被告岡本は、広島支店長として平成六年三月一八日付で、セカイフジが原告の代理店となった場合に原告商品をセカイフジに卸す際の掛け率を記載した見積書(甲一二の1)を同社に提出していたが、この掛け率は、右のとおり原告名古屋支店の閉鎖に際し設定して代理店の株式会社井上定名古屋支店に提示した掛け率(代理店価格)に従ったものである。

(七) なお、原告広島支店の閉鎖と同時に解雇され「アモコーポレーション」に雇用された従業員三名のうち、森は現在でも被告会社で働いているが、他の営業社員二名は既に退職しており、代わりに別の二名が営業社員として被告会社で働いている。

被告会社は、現在、前記のとおり原告以外のメーカーのエクステリア商品を取り扱っているが、増改築工事、外構工事、ブロック工事といった工事の施工を主体として営業している。

2  そこで、右1認定の事実に基づき、被告岡本らは、本件情報を窃取ないし詐取という不正の手段により取得し、これを使用し、被告会社に開示した(不正競争防止法二条一項四号)といえるか否か、また、被告会社は、本件情報について右不正取得行為が介在したことを知って被告岡本らからこれを取得し、使用した(同項五号)といえるか否かについて検討するに、同条同項四号、五号の不正競争に該当するというためには、まずもって、被告岡本らが窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密たる本件情報を取得したものであることを要する。

右1(一)及び前記一1(二)認定の事実によれば、被告岡本は、原告に在職中広島支店の支店長として、営業秘密である本件情報が記載された本件各文書を自ら保管してきたものであり、その記載内容たる別紙顧客目録記載の九五軒の顧客は、被告岡本が同支店を統括する責任者として営業のために日常的に接している顧客であって、被告岡本自身が開拓した顧客も相当数含まれているというのであり、また、本件情報のうち原告が特に重要であるとする本件取引開始申請書及び本件得意先管理台帳に記載されている掛け率は、原告本社においてその最低ラインを指示してはいるが、支店長たる被告岡本の責任において決定していたというのであるから、本件各文書に記載されている本件情報自体は、被告岡本が原告に在職中に広島支店の支店長としての職務上正当に取得したものというべきであって、窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により取得したということはできない。

このように、被告岡本が本件情報を取得した行為が営業秘密の不正取得行為といえない以上、被告岡本が本件情報を使用し、被告会社に開示したとしても、不正競争防止法二条一項四号所定の不正競争には該当しないといわなければならない。したがって、前記のとおり被告岡本の依頼を受けて名義上だけ「アモコーポレーション」の代表者となった被告渡辺についても、同号所定の不正競争に該当するとする余地はない(被告渡辺が実質的に「アモコーポレーション」ないし被告会社の営業に関与したと認めるに足りる証拠はない)。したがってまた、被告会社が被告岡本から本件情報を取得し、使用したとしても、同項五号所定の不正競争には該当しないことが明らかである。

原告は、被告岡本は、自ら経営する「アモコーポレーション」の営業に使用するために、原告の事前・事後の承諾を得ることなく本件各文書を原告広島支店から搬出し、「アモコーポレーション」の事務所に搬入し、原告からの返還要求にも応じずその占有を継続していたから、本件情報を窃取ないし詐取したというべきであると主張するが、被告岡本による取得が問題となる営業秘密とは、それが記載されている有体物としての本件各文書ではなく、その記載内容である本件情報であるところ(不正競争防止法二条四項)、前示のとおり、本件情報自体は被告岡本が原告に在職中に広島支店の支店長としての職務上正当に取得したものということができるから、原告の右主張は採用できない。

3  次に、被告岡本らは、原告から示された本件情報を不正の競業その他の不正の利益を得る目的で自ら使用し、これを被告会社に開示した(不正競争防止法二条一項七号)といえるか否か、また、被告会社は、本件情報について不正開示行為であることを知って被告岡本らからこれを取得し、使用した(同項八号)といえるか否かについて検討する。

原告は、被告岡本は、原告の従業員であった頃から、自己の利益を図るため、原告に秘密裏に被告会社の設立・営業開始の準備をしていたものであり、原告の代表取締役以下の幹部を欺いて広島支店を閉鎖するに至らせ、原告からセカイフジへの原告商品の卸値(掛け率)を低く設定し、更に原告を欺岡して本件備品を本件各文書とともに広島支店から持ち出しこれを「アモコーポレーション」ないし被告会社のため使用し、従前の原告従業員をそのまま雇用し、広島支店の電話を「アモコーポレーション」に転送されるようにするなどしているのであり、被告岡本らの右一連の行為をみれば、被告岡本らが営業秘密である本件情報を使用し、被告会社に開示するについて、不正の競業その他の不正の利益を得る目的があったというべきであり、被告会社は、不正開示行為であることを知って被告岡本らから本件情報を取得し、これを使用したというべきであると主張する。

(一) 原告広島支店閉鎖の経緯をみるに、前記1認定の事実によれば、(1)原告は、一番多いときで全国に七支店(東京、名古屋、大阪、岡山、広島、四国、九州)を有し、販売部門に約五〇名の従業員を擁して各支店を通じて直接顧客に原告商品を販売するいわゆる直販体制をとっていたが、支店維持に要する固定経費を削減するため、次第に、支店を廃止して、従来の顧客である工務店等を代理店とし、これを通じて販売するという販売代理店方式に切り替えていったものであり、広島支店閉鎖前に、東京支店、岡山支店を閉鎖し、続いて平成六年一月三一日をもって名古屋支店を、同年三月三一日をもって九州支店を各閉鎖した、(2)広島支店についても、同支店長である被告岡本が、同支店における収支が赤字であることを理由に、同支店を閉鎖した上でセカイフジを代理店として広島地域における従前の顧客に対し販売を継続することを提案したのに対し、原告代表取締役は、原告本社から支店に対する渡し値(支店ネット価格)には本社の利益が上乗せされており、広島支店においては支店レベルでは赤字であっても本社レベルでは利益を上げていてその赤字を吸収できるから閉鎖するには及ばないと反論したものの、被告岡本が、原告の従前の売上げを落とさずに商売を継続する方法があるとし、その具体的方策として、セカイフジを広島地域における原告商品の販売代理店とするが、同社は顧客管理ができないので、顧客管理はセカイフジの下店となる他の会社に委託する旨を説明したため、最終的には原告代表取締役もこれを了承し、同年四月三〇日をもつて広島支店を閉鎖するに至った、(3)こうして、原告は、セカイフジとの間で取引を始め、被告岡本は、「アモコーポレーション」の営業を開始し、同年八月まで、セカイフジの下店としてセカイフジを通じて原告に原告商品を発注し、これを従前の原告広島支店の顧客に販売するようになった、というのであり、原告の代表取締役以下の幹部を欺いて広島支店を閉鎖するに至らせたということはできない。

原告は、被告岡本は、広島支店長としての地位を利用して、支店レベルでは赤字であっても本社レベルでは黒字であって本来閉鎖する必要のない広島支店の閉鎖を強く申し出ることにより、広島支店の閉鎖に懐疑的であった原告代表取締役以下の幹部社員を欺いて同支店を閉鎖させた旨主張するのであるが、広島支店のレベルでは赤字であっても本社レベルでは黒字であって本来広島支店を閉鎖する必要がなかった旨の原告の主張は必ずしもその趣旨が明確ではないものの、これを認めるに足りる証拠はないのみならず、前示のとおり、現に広島支店は当時損失を出し続けていたのであり、原告の他の支店も同様の理由により相次いで閉鎖していたのであって(広島支店閉鎖から一年後の平成七年四月三〇日の大阪支店の閉鎖をもって原告の支店はすべてなくなった)、しかも、原告代表取締役は、広島支店レベルでの収支の現状も本社レベルでの収支の現状も十分認識した上で広島支店閉鎖を決定したのであるから、被告岡本による広島支店閉鎖の提案ないし主張がその閉鎖の必要性がないのにこれがあるように偽ってなされたものであるということはできない。

(二) そして、広島支店に先立って平成六年一月三一日をもって閉鎖された名古屋支店については、原告は、株式会社井上定名古屋支店を名古屋地域における代理店とし、元の原告名古屋支店従業員桜井正己の営む「新和サービス」をその下店として、「新和サービス」が株式会社井上定名古屋支店を通じて原告商品を買い受け、これを原告の従前の顧客に販売するという形態をとり、従前原告名古屋支店にあった得意先管理台帳のコピー及び包装別支店ネット表を「新和サービス」に移管し、同社で使用することを承諾しており、同年三月三一日をもって閉鎖した九州支店については、代理店になってもらった株式会社加根又本店に対して同様に得意先管理台帳のコピー及び包装別支店ネット価格表を移管している、というのである。

支店を閉鎖して直販体制から代理店を通じての販売に切り替えた後は、得意先管理台帳等に記載されている顧客に対して同記載の掛け率により直接販売することはなくなるのであるから、原告自らこれらの文書を保管するよりも、むしろ、右のように顧客管理をする代理店ないしその下店に移管する方が原告の従前の顧客との取引関係を維持し、原告商品の販路を確保するのに有効な方策であり、合理的ということができる。広島支店についても、原告は、支店を閉鎖してセカイフジを広島地域における代理店とするという、名古屋支店等の場合と同じ販売形態をとったのであるから、広島地域において顧客管理をするセカイフジの下店に広島支店における従前の顧客に関する本件情報の記載された本件各文書を移管するのが原告の従前の顧客との取引関係を維持し、原告商品の販路を確保するのに有効な方策であり、合理的ということができる。現に、前記のとおり、原告の原野専務は、平成六年五月初旬に広島支店から原告大阪支店に送付されてきた書類の中に本件得意先管理台帳及び本件取引開始申請書がなかったので、被告岡本に問い合わせたところ、同被告から従来の顧客を管理する会社に渡したとの報告を受け、これを一応了解しており、また、同年六月二二日に「アモコーポレーション」の事務所を訪れ、森を含む「アモコーポレーション」の従業員三名の立会いのもと、森の机で本件得意先管理台帳を、森を含む三名の机で本件包装別支店ネット表を発見した際、これを持ち帰ろうとしたが、森からこれらは顧客に対する売上伝票を発行するのに使用しているので持ち帰っては困るとの申出があったため、その申出を尊重して、それなら残しておくという趣旨の発言をしてそのままにしておいたのであって、少なくともその当時は本件得意先管理台帳及び本件取引開始申請書をセカイフジの下店である「アモコーポレーション」において使用することを容認していたものといわざるをえない。

(三) また、被告岡本は、広島支店長として在職中の平成六年三月一八日付で、セカイフジが原告の代理店となった場合に原告商品をセカイフジに卸す際の掛け率を記載した見積書(甲一二の1)を同社に提出していたが、この掛け率は、原告名古屋支店の閉鎖に際し設定して代理店の株式会社井上定名古屋支店に提示した掛け率(代理店価格)に従ったものである。

原告は、原告からセカイフジへの原告商品の卸値(掛け率)を低く設定した旨主張するのであるが、右セカイフジへの卸値(掛け率)が従前原告本社から広島支店へ計算上卸していた渡し値(支店ネット価格)より低いというのであれば、顧客に直接販売する方式とは異なり、代理店方式を取る以上、代理店のマージン分だけ卸値を低く設定せざるをえないのは当然のことであり(その代わり、支店維持の経費を要しない)、証人原野好繁は、代理店のマージン分を考慮に入れてもなおセカイフジへの卸値(掛け率)は異常に低すぎる旨証言するが、セカイフジに提示した掛け率は、右のとおり名古屋支店の閉鎖に際し設定して代理店の株式会社井上定名古屋支店に提示した掛け率(代理店価格)に従ったものであるから、右証言は採用することができず、セカイフジへの卸値が異常に低すぎるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

更に、本件備品については、原告主張のように原告を欺岡して広島支店から持ち出したといえないことは後記三説示のとおりであり、従前の原告従業員をそのまま雇用したことは格別問題とすべきことではなく、広島支店の電話を「アモコーポレーション」に転送されるようにしたことについては、原告本社で開催された支店長・幹部会議において、被告岡本が広島支店の電話はセカイフジの下店となる会社に転送し、その会社で対応する旨説明し、最終的に原告代表取締役の了承を得ているところである。

(四) 被告岡本は、原告が本件訴え提起後間もなくの同年八月「アモコーポレーション」向け原告商品についてセカイフジとの取引を停止するまでの間、顧客から原告商品の注文を受けると、セカイフジを通じて原告に発注し、これを受けて原告がセカイフジ、「アモコーポレーション」を通じて顧客に原告商品を販売していたものであって、被告岡本において営業秘密たる本件情報を使用することは、原告商品の売上げを伸ばすことにもつながるものであるから、原告と被告岡本は基本的に競争関係に立つものではなかったということができる。

原告が「アモコーポレーション」向け原告商品についてセカイフジとの取引を停止した後は、「アモコーポレーション」ないし被告会社(平成六年一一月一〇日の設立後)は他のメーカーのエクステリア商品を取り扱っているので、原告と競争関係に立っているということになるが、被告岡本は、幹部社員であったとはいえ原告の一従業員にすぎなかったものであるから、原告を退職した後において法律上当然に競業避止義務を負うものではなく、他に原告との間で競業避止義務を負う旨の合意をしたと認めるに足りる証拠もないから、被告岡本が原告退職後に広島地域において原告と同種の商品を取り扱う営業を行うこと自体は許されないものではない。その際、被告岡本は、本件各文書に記載された別紙顧客目録記載の顧客のうちいくつかの業者に対し、「アモコーポレーション」の取り扱う商品の購入方を勧誘したことがあることは被告らの認めるところであるが、前記のとおり広島地域においてどの工務店等が原告広島支店の顧客であるかは、本件取引開始申請書や本件得意先管理台帳によるまでもなく被告岡本の記憶しているところであるから、本件情報を使用しているとはいえず、かかる顧客に対する営業活動を一切禁止することは被告岡本の営業活動に対する重大な支障となり、憲法上保障された職業選択の自由を不当に制限することになるというべきである。他に、被告岡本が他のメーカーのエクステリア商品を取り扱うにつき本件情報を使用していると認めるに足りる証拠はない。

(五) 確かに被告岡本は、原告広島支店閉鎖後に原告の販売代理店となるべきセカイフジの販売先である会社というのは実は被告岡本の設立する会社(「アモコーポレーション」ないし被告会社)であり、自らセカイフジの下店として、広島地域の顧客から原告商品の注文を取ってセカイフジを通じて原告に発注する仕事を行うつもりであることは一切原告に告知しておらず、そして、自己が「アモコーポレーション」の代表者になっていることを原告に隠すため、友人である被告渡辺に依頼して名義上だけ「アモコーポレーション」の代表者になってもらうこととし、同被告に「アモコーポレーション代表」という肩書の名刺を持たせたりしていたのであり、この点不誠実な印象は免れず、加えて、「アモコーポレーション」の営業を始めた平成六年五月二日当時は、同年初め頃から原野専務等に対し原告を退職したい旨の意思を表明していたものの、未だ正式に原告を退職していなかったのであって、正式に原告を退職する旨の申出をしなかった理由についての被告岡本の供述は必ずしも説得力があるとはいえないが、かかる事情を考慮に入れても、前記(一)ないし(四)の事情を総合すれば、被告岡本が不正の競業その他の不正の利益を得る目的で本件情報を使用し、被告会社に開示したとまでいうことはできない。

したがって、被告岡本の行為は、不正競争防止法二条一項七号所定の不正競争行為に該当するということはできず、被告岡本の被告会社に対する本件情報の開示行為が不正開示行為に当たらない以上、被告会社の行為についても同項八号所定の不正競争行為に該当するということはできない。被告渡辺については、前記のとおり実質的に「アモコーポレーション」ないし被告会社の営業に関与したと認めるに足りる証拠はないから、右七号所定の不正競争行為をしたとする余地はない。

4  以上のとおり、被告らの行為は、不正競争防止法二条一項四号、五号、七号又は八号所定のいずれの不正競争行為にも該当するとは認められないから、原告の同法三条に基づく差止請求及び四条に基づく損害賠償請求は、いずれも理由がないことになる。

右差止請求について付言するに、請求の趣旨第一項は、本件各文書の全部又は一部を第三者に開示することの差止めを求めるものであるが、被告岡本が本件得意先管理台帳に記載された顧客の名称、住所、掛け率、与信限度等をセカイフジに知らせた以外、被告らが更に本件各文書を第三者に対し現に開示しているとか将来開示するおそれがあると認めるに足りる証拠はなく、請求の趣旨第二項のうち、別紙顧客目録記載の顧客に対し、訪問、電話勧誘、郵便物の送付をすることの差止めを求める部分は、前記3(四)後段の説示に照らし理由がないというべきであり、別紙顧客目録記載の顧客に対し原告商品を販売することの差止めを求める部分については、原告が「アモコーポレーション」ないし被告会社に対する原告商品の供給を停止した以上、被告らが原告商品を販売するおそれはないというべきである。

三  争点4(被告岡本らは、本件備品を窃取ないし詐取したものであるか)について

1  本件備品(別紙物件目録(二))のうち、被告岡本が現に占有しているものの範囲につき一部争いがあるが、この点はさておき、原告が原告広島支店を閉鎖するに当たって本件備品を含む同支店の什器・備品の処分を被告岡本に指示したことは、当事者間に争いがない。これによれば、被告岡本は、原告からその所有にかかる本件備品を含む什器・備品に対する処分権限を与えられたことになるから、その処分権限に基づきこれを任意に処分できたことは明らかであり、そして、右処分権限は被告岡本が自らこれを使用するために引き取ることも含まれていたと解するほかないから、被告岡本が本件備品を「アモコーポレーション」の事務所に搬入して自ら使用することも、原告から与えられた右処分権限の趣旨に沿ったものというほかない。

2  原告は、被告岡本は、原告広島支店閉鎖に伴い本件備品を処分するについて、原告担当者に対し「これらは中古業者に無料で引き取らせる以外、処分方法がない」旨虚偽の事実を申し向け、その旨誤信させて本件備品を無償で処分することを承諾させ、平成六年五月二日、広島支店から本件備品を搬出し、これを自己の経営する「アモコーポレーション」の事務所に搬入して窃取ないし詐取したものであると主張し、前記1の被告岡本に対する処分の指示について、被告岡本が原告の従業員として原告に最大限利益になるよう処分することを指示したのであり、まだ十分使用に耐えうる物品を廃棄処分以外にないと偽りの報告をし、原告に無断で領得するような処分をすることを指示したのではないと主張する。しかし、証拠(甲八、九の1・2、一〇、乙一、三の1・2、四、六ないし八、証人原野好繁、被告岡本)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、広島支店の閉鎖に伴い、当時広島支店にあった甲第九号証の2(平成五年八月三一日現在の広島支店の設備・備品明細表)記載の本件備品の処分を被告岡本に委託し、使用できるものについては本社に移管するよう指示していたが、被告岡本が乗用車を除く本件備品について中古品買取業者に買取り価格を見積もらせたところ、書庫五個については一個当たり一〇〇〇円で合計五〇〇〇円で売却できるが、ロッカー、応接セット、カウンター等その他の事務用品一式については売却不能で逆に処分費用が四万円かかるため差引き三万五〇〇〇円原告の負担となる旨の見積書(乙三の1・2)の提示を受けたため、被告岡本は、原告から具体的に送付の指示があった電話機一台、机用マット及びファイルを大阪支店に送ったものの、その他の事務用品については本社への移管費用に不相当に費用がかかる旨を原告に返答し、結局、原告から前記のようにその処分を委ねられたので、本件備品のうち一部(第三の四【被告らの主張】2において、被告岡本が占有していることを認めているもの)を「アモコーポレーション」の事務所で使用すべく運び込み、他はゴミ等として処分したこと、また、乗用車二台(ダイハツシャレード〔登録番号・和泉五二ね八六七三〕及びいすゞファーゴ〔登録番号・和泉五二ち一五六五〕)についても、被告岡本が中古業者に見積もってもらうと売却はできないとのことであったので、被告岡本は、一番費用のかからない方法で処分するようにとの原告の指示に従い、二台とも廃車処分し抹消登録手続をしたが、そのうちいすゞファーゴについては、再登録の上で「アモコーポレーション」ないし被告会社で使用していることが認められ、右事実によれば、本件備品を処分するについて「これらは中古品業者に無料で引き取らせる以外、処分方法がない」旨の被告岡本の発言は虚偽とはいえず、被告岡本が本件備品を窃取ないし詐取したということはできない。原告は、被告岡本はまだ十分使用に耐えうる物品を廃棄処分以外にないと偽りの報告をしたとも主張するが、本件備品は、売却は不可能でも(交換価値は零でも)、広島支店閉鎖まで使用していたのであるから、その後も使用しようと思えば使用できないものでないことは明らかであるところ、原告は、被告岡本に対し、まだ使用に耐えるものであれば移管費用の多寡にかかわらず本社に移管せよとの指示をしたものでないことは明らかであり、結局は被告岡本に対し本件備品全部についてその任意の処分を委ねた以上、本件備品の所有権を放棄したものといわざるをえないから、原告の主張は採用できない。

なお、被告渡辺については、そもそも本件備品の搬出・搬入を幇助し、これを占有しているとの事実を認めるに足りる証拠がない。

したがって、所有権に基づき被告岡本らに対し本件備品の引渡しを求める原告の請求も理由がないというべきである。

第五  結論

よって、原告の被告らに対する本件請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

営業秘密目録

(一) 得意先管理台帳

但し、別紙顧客目録記載の原告の顧客の左記情報を、氏名の五〇音順に編成したもの記

(1)得意先名 (2)代表者 (3)電話番号 (4)ファクシミリ番号 (5)住所

(6)与信限度 (7)締切日 (8)請求期日 (9)回収日 (10)決済方法 (11)担当

(12)取引商品に対する掛率

(二) 取引開始申請書

但し、別紙顧客目録記載の原告の顧客の左記情報を、氏名の五〇音順に編成したもの記

(1)<1>社名(商号) <2>所在地 <3>電話番号

(2)<1>代表者氏名 <2>自宅住所 <3>電話番号

(3)法人の場合 <1>資本金 <2>創業年月 <3>設立年月

(4)個人の場合 <1>創業年月 <2>生年月日、年齢

(5)営業内容 (6)代表者の状況 (7)従業員 (8)取引条件 (9)決済方法

(10)必要書類 (11)与信限度 (12)取引商品に対する掛率 (13)担当者所見

(三) 包装別支店ネット表

但し、別紙顧客目録記載の原告の顧客の左記情報を、氏名の五〇音順に編成したもの記

(1)機種 (2)コード番号 (3)包装 名称 (4)色 (5)上代価格 (6)支店ネット

(7)販売単価 税込み価格 (8)差益額 (9)差益率

顧客目録

(省略)

物件目録(一)

一、サンフロアーⅡ JNB型 柱建て式(バルコニー)

二、サンフロアーⅡ JNB型 屋根置式(右同)

三、テラス 太陽 SET型

四、アールテラス そよ風 SAT型

五、三本柱 カーポート レインボーⅢ JNG

六、四本柱 スペースポート 木かげ JCRⅡ

七、六本柱 カーポート 銀河 SEF

八、カーバルコ AC

九、ウインドガーデン NMB(窓手摺)

一〇、ガーデンルーフ WGR(右同)

一一、ショップルーフ 雅 TL-L型(店舗用庇)

一二、ショップルーフ 雅 TL-H型(右同)

一三、アルミ門扉 平安 A-01

一四、アルミ門扉 高砂 A-02

一五、アルミ門扉 飛鳥 A-03

一六、アルミ門扉 加賀 A-04

一七、アルミフェンス わかば B-01

一八、アルミフェンス わかくさ B-02

一九、モビール門扉 あじさい C-01

二〇、モビール門扉 やまぶき C-02

二一、アルミサイディング MOCK N(外壁材)

二二、アルミサイディング SAフラットⅡ(右同)

二三、アールテラス・ゼフィーロ SAT型

二四、アクリルテラス・リネア SFT型

二五、カーポートGV型

二六、カーポートSNG型

物件目録(二)

品名 数量

一、普通乗用車 いすずファーゴ(車番 元泉46す一六八四、現在広島52ね六二六四に登録替え) 一台

二、机(両袖)(高さ69cm×幅160cm×奥行70cm) 三台

三、机(片袖)(高さ69cm×幅120cm×奥行70cm) 九台

四、肘付椅子 二台

五、肘無椅子 一〇台

六、ロッカー(三人用)(高さ180cm×幅90cm×奥行51cm) 一台

七、ロッカー(掃除用具用)(高さ180cm×幅45cm×奥行49cm) 一台

八、書庫ガラス戸付(高さ88cm×幅88cm×奥行40cm) 一台

九、書庫スチール戸付(高さ88cm×幅88cm×奥行40cm) 一台

一〇、書庫ガラス戸付(高さ88cm×幅176cm×奥行40cm) 一台

一一、書庫スチール戸付(高さ88cm×幅176cm×奥行40cm) 一台

一二、タイムレコーダー 一台

一三、トレー(7段 A四判) 一台

一四、トレー(一段 A四判) 五台

一五、洋服掛け 一台

一六、応接用テーブル(高さ70cm×幅120cm×奥行75cm) 一台

一七、応接用椅子(一人用) 四台

一八、会議用テーブル(高さ70cm×幅180cm×奥行60cm) 二台

一九、会議用椅子 六台

二〇、カウンター(高さ90cm×幅188cm×奥行45cm) 三台

二一、回転帳簿立パネル式(高さ312cm×幅450cm×奥行450cm) 一台

二二、営業用机(高さ74cm×幅120cm×奥行45cm) 一台

二三、ホワイトボード(高さ90cm×幅60cm) 一台

二四、ホワイトボード(高さ100cm×幅70cm) 一台

二五、ホワイトボード(高さ90cm×幅180cm) 一台

二六、ホワイトボード行事予定表(高さ90cm×幅120cm) 一台

二七、書庫ガラス戸付(高さ179cm×幅88cm×奥行40cm) 一台

二八、台所キャビネット(高さ88cm×幅60cm×奥行40cm) 一台

二九、黒板(高さ90cm×幅180cm) 一台

三〇、パーテーション(ドア)(高さ210m×幅83m) 二台

三一、パーテーション(高さ210m×幅90m) 八台

三二、パーテーション(高さ210m×幅86m) 一台

三三、パーテーション(高さ210m×幅54m) 一台

三四、パーテーション(高さ210m×幅51m) 一台

三五、湯沸しポット 一台

三六、掃除機 一台

三一、パーテーション(高さ210m×幅90m) 八台

三二、パーテーション(高さ210m×幅86m) 一台

三三、パーテーション(高さ210m×幅54m) 一台

三四、パーテーション(高さ210m×幅51m) 一台

三五、湯沸しポット 一台

三六、掃除機 一台

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